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シムウンギョンとチャングムの誓い - 伝説の子役デビューから日本アカデミー賞女優への軌跡

By Christopher Pierce
シムウンギョン チャングムの誓い 子役時代

韓国女優シム・ウンギョン。その名前を聞いて、日本のドラマファンがまず思い浮かべるのは、松坂桃李との共演作「新聞記者」かもしれない。だが彼女のストーリーは、もっとずっと前に始まっている。まだ9歳だった2003年、シムウンギョンはチャングムの誓いという一本のドラマによって、韓国エンターテインメントの世界へ足を踏み入れた。チョイ役だったとはいえ、その存在感は本物だった。

あれから20年以上が経つ。子役として歩み始めた彼女は今や、日本アカデミー賞史上初めて最優秀主演女優賞を受賞した外国人女優として歴史に名を刻んでいる。二つの国の映画界を渡り歩き、二つの言語で演技をこなす。そんな稀有なキャリアの原点が、あの宮廷歴史ドラマにある。

「チャングムの誓い」とはどんな作品だったか

「宮廷女官チャングムの誓い」(韓国語題:대장금 / 大長今)は2003年9月15日から2004年3月23日にかけてMBCで放映され、平均視聴率45.8%、最高視聴率57.1%を記録した韓国歴史ドラマの金字塔である。

厳しい身分制度の時代、不幸な家庭環境に生まれた主人公チャングム(長今)が、前半は宮廷料理人として、後半は女医として活躍し、「大長今(偉大なるチャングム)」の称号を得るまでの波乱の半生を描いた作品だ。単なる宮廷ロマンスではなく、料理・医学・権力・女性の自立といったテーマが複雑に絡み合った、重厚な物語として知られる。

制作費1500万ドルを投じて作られたこの作品は、後に91カ国に輸出され、全世界で1億340万ドル以上を稼ぎ出し、韓流(ハンリュウ)の代表的な旗手として韓国文化の海外普及に大きく貢献した。日本でもNHKが放映し、社会現象ともいえる人気を巻き起こしたことを記憶している人は多いだろう。

宮廷女官チャングムの誓い 韓国歴史ドラマ

9歳での芸能デビュー - チャングムの誓いとの出会い

シム・ウンギョンのデビュー作は、日本でも話題になったドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」だった。彼女が芸能の世界に足を踏み入れたのは9歳のとき。演技を始めたきっかけは、明るい性格になるためだったという。その動機の純粋さが、なんとも彼女らしい。

2003年のドラマ「宮廷女官チャングムの誓い(大長今)」に出演したシム・ウンギョンは、このとき役名もない見習い女官役として画面に現れた。セリフも少なく、スクリーンタイムもわずか。しかしそのほんの短い登場シーンのなかに、後の実力派女優の片鱗を感じたプロデューサーや関係者は少なくなかったはずだ。

韓国で最高視聴率57.8%を記録したTVドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」での見習い女官役で芸能界デビューを果たしたシムウンギョンは、その後「春のワルツ」「ファン・ジニ」「太王四神記」などで主要キャラクターの子ども時代を演じ、人気子役としてキャリアをスタートさせた。

子役から人気スターへ - 急速な成長の軌跡

チャングムの誓いで扉を開いた後、シムウンギョンの仕事量は急速に増えていく。当時の韓国ドラマ界では、ヒロインや主人公の幼少期を演じる子役の役割が非常に重要視されていた。メインキャストの子ども時代を説得力を持って演じられる子役は、それだけで重宝がられる。

2006年にはKBS演技大賞青少年演技賞を受賞するなど、韓国の人気子役として各メディアで注目を集めるようになっていった。受賞歴がキャリアの確かさを裏付けた形だ。

そして2011年。子役のイメージを完全に覆す転機が訪れる。映画「サニー 永遠の仲間たち」での出演がきっかけとなり、大注目を浴びることになった。青春映画のなかで見せた繊細かつ力強い演技は、彼女が単なる「かわいい子役」の枠をとうに超えていることを証明してみせた。

シムウンギョン 怪しい彼女 韓国映画

「怪しい彼女」で掴んだ大ブレイク

2014年、韓国で観客動員数866万人を記録した大ヒット映画「怪しい彼女」で主演を務め、百想芸術大賞女性最優秀演技賞(映画部門)など数々の賞を受賞した。70代の老女が突然20代の体になってしまうという奇抜な設定のなか、シムウンギョンは見た目は若者でも内面は老女という複雑な役を、コミカルかつ深みのある演技で表現した。

同年、ドラマにも4年ぶりに復帰。「のだめカンタービレ ネイルカンタービレ」というタイトルで知られる韓国版リメイクに出演し、TVドラマと映画の両輪で活躍する女優としての地位を盤石にしていった。二つのフィールドを同時に制覇する。それは並の俳優にはなかなか難しい芸当だ。

日本への挑戦 - 岩井俊二と是枝裕和に惚れ込んだ少女の夢

中学生の頃から岩井俊二や是枝裕和の映画に影響を受け、いつか日本でも仕事をしたいという気持ちを持ち続けていたというシムウンギョンは、やがて日本でも活動するようになる。ファン心理から生まれた願望が、キャリアという形で実を結んだ珍しいケースといえる。

2017年4月、彼女は日本のマネジメント会社と専属契約を締結。その決意は揺るぎなかった。アメリカ留学も経験し、2013年にはニューヨークのプロフェッショナル・チルドレンズ・スクールを卒業している。英語、韓国語、そして日本語。複数の言語を操るその学習能力もまた、彼女の俳優としての武器になった。

「新聞記者」と日本アカデミー賞 - 歴史を塗り替えた夜

第43回日本アカデミー賞授賞式が2020年3月6日にグランドプリンスホテル新高輪で行われ、シム・ウンギョンは映画「新聞記者」で最優秀主演女優賞に輝いた。壇上で大粒の涙をこぼしながら、その喜びをかみしめた。

「新聞記者」は東京新聞記者・望月衣塑子のベストセラーを原案にした作品で、政権が隠そうとする権力中枢の闇に迫ろうとする女性記者と、理想に燃える公務員の道を選んだ若手エリート官僚の対峙や葛藤をオリジナルストーリーで描いた社会派サスペンスだ。シムウンギョンは新聞記者の吉岡エリカ役を演じ、松坂桃李と火花を散らすような共演を見せた。

「新聞記者」は最優秀作品賞を受賞し、W主演のシム・ウンギョンと松坂桃李がそろって最優秀主演賞を射止めるという、歴史的快挙を遂げた一夜となった。

日本アカデミー賞の歴史において、演技部門の優秀賞を外国人が受賞するのはペ・ドゥナ以来2人目だったが、最優秀賞受賞は史上初の快挙だった。韓国出身の女優が日本映画の頂点に立つ。その事実は、日韓の映画ファン双方に強烈なインパクトを与えた。

シムウンギョン 新聞記者 日本アカデミー賞

シムウンギョンのキャリア年表 - チャングムの誓いから現在まで

作品・出来事 備考
2003年 チャングムの誓い(宮廷女官) 見習い女官役でデビュー(9歳)
2006年 ファン・ジニ / 春のワルツ KBS演技大賞青少年演技賞受賞
2011年 サニー 永遠の仲間たち 子役から実力派女優へ転換
2014年 怪しい彼女 百想芸術大賞 最優秀演技賞(映画)受賞
2019年 新聞記者(日本映画) 日本アカデミー賞 最優秀主演女優賞

「なぜ日本で?」という問いへの答え

シムウンギョンが日本映画界に進出した理由について、外野からは様々な憶測が飛んだ。韓国での人気に陰りが出たのではないか、という見方もあった。しかし彼女の発言はそうした臆測を一蹴する。

新天地を求めて大胆に環境を変えてきた彼女のバイタリティについて、「ずっと自分がしたいことを見つけて挑戦してきた、それを結果に結びつけてきた」と高く評価する声がある。その言葉が示す通り、彼女の選択は常に内側から動いている。外圧でもなく、戦略でもなく、純粋な欲求がキャリアを形作ってきた。

日本語習得にしても同じだ。中学生の頃から日本映画を観て育ち、言語の壁を自力で乗り越えた。そうして身につけた日本語で、日本映画史に残るパフォーマンスを見せた。努力の積み重ねがいかに大きな実を結ぶか、彼女のキャリアはその鮮やかな証明になっている。

チャングムの誓いが残したもの - 一つのデビューが持つ意味

「大長今(偉大なるチャングム)」の称号をもらうまでの半生を描いたこの歴史ドラマは、日本を含む計8言語でリメイクされるという世界初の記録を打ち立てた作品だ。そのスケールを考えると、シムウンギョンがこのドラマをデビューの場に選んだ(あるいは選ばれた)という事実が、いかに大きな幸運であり必然だったかがわかる。

「チャングムの誓い」という作品は、ただのテレビドラマではない。韓国ドラマが世界に向けて発信された最初期の大波のひとつであり、その波に乗った子役の一人がシムウンギョンだった。彼女がそこで経験したこと、吸収したこと、感じたことが、後のキャリアの土台になっているのは想像に難くない。

9歳の見習い女官が、20年後に日本映画史を塗り替える女優になる。その軌跡を振り返ると、キャリアとはいかに予測不能で、同時にいかに必然に満ちているかをしみじみ感じる。シムウンギョンのストーリーは、まだ途中だ。

実力派女優として、これからの活躍に期待

俳優という職業はキャリアを積むことより経験と素養が大事だという考えを持つシム・ウンギョンは、海外留学や日本への進出も前向きに取り組んできた。その姿勢こそが、彼女を単なる「元子役」から、国境を超えた実力派女優へと押し上げた原動力だろう。

韓国と日本、二つの映画産業のあいだを自由に行き来しながら、それぞれの文化に根を張ったパフォーマンスを見せる女優は、そう多くない。チャングムの誓いで産声を上げたそのキャリアが、今後どこへ向かっていくのか。両国のファンが固唾をのんで見守り続けている。